FPSO船向け流体システムの構築に伴う問題を回避するには
複雑な浮体式生産貯蔵積出設備(FPSO)の建造に挑む
Tommy Jamail、リージョナル・コンストラクション上級マネジャー、アジア太平洋地域担当
Barry Rowe-Platts、技術主幹、エンジニアリング・サービス担当
オイル/ガス産業に携わる企業は、先行きが読めない市場における困難な状況を切り抜けながら、アップストリーム事業の採算性を維持するべく模索しています。その中で、浮体式生産貯蔵積出設備(FPSO)船は、世界各地の油田から効率的かつ低コストで原油を生産する手段として採用されるケースが増えています。
FPSO船は、固定式のオイル/ガス・プラットフォームと同等の機能を備えながらも、新たな好機が生まれたときや、経済状況や地政学的関係の変化に応じて再配置できるという特徴があります。FPSO船の導入は今後数年で増加すると予測されており、フォーチュン・ビジネス・インサイトの調査によれば、FPSO船市場は2027年までに14%を超える成長が見込まれています1。
FPSO船の建造およびメンテナンスを成功に導くには、検討すべきポイントがあります。特に、長期的かつ信頼性の高いオペレーションを支える数十もの重要な小口径流体システムのアプリケーションおよびパッケージに関する配慮が必要です。
FPSOの建造およびメンテナンスにおける流体システム関連の考慮事項
FPSO船は、他の海上オイル/ガス・アップストリーム・アプリケーションと共通の課題に加えて、FPSO船に特有の課題の影響を受けることも少なくありません。FPSO船の建造コストを固定式プラットフォームの建設コストよりも抑えるには、FPSO船の建造中およびその前段階において、関係者全員が厳しい建造スケジュールを順守することが重要となります。建造に遅延が生じると、エンジニアリング、調達、建設会社(EPC)またはパッケージ・ベンダーの評判が失墜するおそれがありますが、最も深刻な問題を抱えることになるのは、ダウンタイム(停止時間)によって多大な損失を被る船舶オーナー/オペレーターです。船舶オーナーにとって一番の関心事は安全性であるとはいえ、生産量を最大化するには船舶を迅速に海上へ復帰させる必要があります。
FPSOの建造およびメンテナンスに関連する遅延には、さまざまな原因が考えられます。
グローバル・ロジスティクスおよびコミュニケーションに関する問題:
FPSO船の新規建造時や、既存の構造体を改造して必要な装置を組み込む際は、数多くの事業体間での調整がつきものです。例えば、FPSOは世界各地で稼働していますが、構造体の大半はアジア太平洋地域で建造または供給されているため、FPSOの建造場所または流体システムの組み込みや試運転を行う場所に対する調整、出荷、配送が必要となります。また、最近のオイル/ガスのアプリケーションやパッケージは、特殊化が顕著になっています。FPSOのような大規模プロジェクトでは、さまざまな国からEPCが参加し、数十種類もの重要な船上アプリケーション向けの装置の設計やエンジニアリングを行うことも珍しくありません。概念設計(Pre-FEED)段階の前から試運転に至るまで続く、EPCとパッケージ・ベンダー間の調整は非常に重要であり、大きな課題になることもあります。
- ソリューション:FPSOのアプリケーション設計の経験を有していることに加え、現地に拠点を持ち、現地の文化や言語、規制を理解している人材を擁するサプライヤーと協力することで、オーナー/オペレーターやEPCは上記のような複雑な問題をクリアすることができます。流体システム・サプライヤーの中には、流体システムのエンジニアリングや製品選定の指導だけでなく、キャピタル・プロジェクトの管理やロジスティクスのサポートについても豊富な経験を持つ専任の グローバル建造チーム を擁しているところもあります。
調達における流体システム製品の入手性に関する課題:
海上における流体システムは特に腐食の影響を受けやすく、高圧要件への適合が求められることもありますが、特殊合金製の専用部品の入手性には制限がある場合があります。大規模な建造プロジェクトではこれが問題になる可能性があり、油田がいかに隔絶された場所にあるかを考えると、稼働中の船舶においても多数の交換用部品を確保することは容易ではありません。また、業界のコンプライアンス基準に適合するために特別な配慮が必要とされることもあります。例えば、環境への影響を実質ゼロにすることを目指してFPSO船を設計・運用することなどが挙げられます。
- ソリューション:オーナー/オペレーターやEPCは、可能であれば概念設計(pre-FEED)段階から早期に流体システム部品のサプライヤーと連携し、キャピタル・プロジェクトのスケジュールを順守するべく、入手しやすい適切な部品 を確保しましょう。サプライヤーと連携することで、オペレーション環境に適したパフォーマンスを発揮する製品の調達計画を立てることができるほか、船上にあるすべての製品を反映した資産台帳を作成することもできるサプライヤーも存在します。これにより、適切な部品を確保して流体システムのメンテナンスや修理を行うことが容易になります。
造船所での作業慣行に起因するシステムの信頼性の問題および早期故障:
FPSO船の新規建造時であろうと、ドライ・ドックでのメンテナンス/修理作業時であろうと、流体システムの取り付けを正しく行わなかった場合、FPSO船の使用期間全体にわたり、メンテナンスや安全性、生産に関する問題が発生しやすくなります。適切な設計の基本原則に従って材料の選定、チューブのレイアウト、サポート、取り付けを行ったか否かによって、メンテナンスや修理、交換が何度も必要になるシステムと、そうではないシステムとの差が生まれます。システムの設計がどんなに優れていても、経験不足の人や十分なトレーニングを受けていない人が取り付けを行うと、作業ミスが生じる可能性があります。大規模な設備では、こうした問題が増大し、試運転やオペレーション中に重大な問題に発展するおそれがあります。
例えば、建造中にコントラクターによる作業が原因で、チューブや配管においてカーボン・コンタミネーションが発生することがあります。これには、溶接作業や研削作業で発生した高温のスパークによる直接的なコンタミネーションと、切断作業やサンドブラスト作業で飛散した異物による間接的なコンタミネーションがあります。こうした作業を行う際に、防水シートや消火用毛布でステンレス鋼製の流体システムを保護することがありますが、このようなカバー類は溶けてしまったり、現場にいる作業者が取り外してしまったりする可能性がある上に、もしそこに水やパーティクルがたまった場合はかえってコンタミネーションの原因となる可能性もあります。これが問題となるのは、十分な保護策や予防策を講じていなかった場合、ステンレス鋼が過酷なオペレーション環境にさらされた際に、こうしたコンタミネーションによって深刻な腐食が生じる可能性があるためです。その結果として、システムの耐用年数が短くなり、メンテナンス頻度が増え、さらには気付かないまま放置していると、安全上の懸念につながるおそれがあります。
カーボン・コンタミネーションによる損傷はすぐには見つからないことがありますが、いったん潮風や海水にさらされると、流体システムは急速に腐食します。これを見落とすことで巨額の経済的損失につながったというケースは珍しくありません。油田を往復する長旅の後に船舶をドックに戻し、何キロメートルものチューブを交換し、作業員を長期間滞在させる必要が生じるなどして、何カ月にもわたる手直し作業の間に毎日数百万ドル相当もの石油生産量が失われるばかりか、顧客の信頼まで失うことにもなるのです。
- ソリューション:こうした問題を防止するには、適切な設計の基本原則を採用し、高品質の製品を選定し、取り付けのトレーニングを受講し、取り付けや試運転という重要な段階では専門家による監督を受けましょう。小口径チューブ・システムのスペシャリストは、チューブ・システムの取り付けに慣れていないコントラクターのスキル向上および作業ミスの防止をサポートします。流体システムのエンジニアリング・サービスを活用する ことで、船舶の出航後に問題が生じるのを防止できるのはもちろん、ドライ・ドックでプロジェクトのスケジュールの遅延が生じる可能性を最小限に抑えることも可能です。
FPSO船向けの流体システムに関する課題は、船舶の設計や建造に限られたことではありません。FPSO船は次にドライ・ドック入りするまで20年以上も海上に滞在することがあるため、船上に搭載された重要な流体システムは、安全かつ信頼性の高いパフォーマンスを発揮することが求められます。
海上でのオペレーションおよび航行中のメンテナンスや修理に関する課題:
大掛かりなメンテナンス作業はドライ・ドックのみで行い、その合間の軽微なメンテナンスは最小限に抑えるように心がけていても、長期にわたる航行期間中には、流体システムに問題が見つかって対処が必要になることがあります。しかし乗船人数には限りがある上、ヘリコプターでも長時間かかるほど陸地から遠く離れていることも少なくありません。乗船人数が限られていると、小口径チューブ・システムのメンテナンスやトラブルシューティングについての専門知識が不足するということは珍しくありません。通常なら見落とされていたような問題が、航行中に表面化することもあります。例えば、FPSO船の航行中に、重要な装置を支えるフレームが応力腐食割れによって破損し、緊急に修理する必要があったにもかかわらず、知識が不足していた結果、船舶がドックに入るまで十分な修理が行われなかったというケースがありました。このような問題が生じると、多忙なメンテナンス・スケジュールの中で作業範囲が拡大するといった予想外の事態が発生し、コスト超過や作業の遅延につながることもあります。
- ソリューション:FPSO船のオーナー/オペレーターは、船上作業員の間で小口径チューブ・システムに関する知識にどのような格差があるのかを把握し、船舶が沖合にいる間やドライ・ドックでメンテナンスを受けている間に、 専門家を招いて 重要な流体システムの評価を行うことを検討してみてはいかがでしょうか。例えば、スウェージロックのフィールド・エンジニアは、乗組員が流体システムの問題の根本原因を特定することができるようサポートし、オペレーション・チームがより効果的に漏れの検出や予防を行えるようトレーニングを行うことができます。また、課題が見つかった場合は、それに対処するためのソリューションも提供することができます。スウェージロックのソリューションは、設計/製品選定/実装に関するコンサルティングから、損傷した組み立て品の交換や船上プロセスの効率向上(流体の状態を正しく表すサンプルの採取や回転機の機能など)を目的とした、十分にテストを行った流体システム・パネルの構築まで、多岐にわたっています。
FPSOの建造における重要なアプリケーションについての考慮事項
重要なのは、FPSO船上の多くの重要なアプリケーションやパッケージに合う画一的なソリューションは存在しないということです。設計する際は、以下の要因をはじめとするさまざまなニーズを考慮する必要があります:
- 貯留層の特性
- FPSOの動き
- 貯蔵量および構造体のサイズ
- エクスポート・システムの選択
- シングルまたはツイン生産トレイン
- 廃止措置や再配置の可能性
FPSOが海上でオペレーションを行っている間、すべての搭載システムが確実に動作することが重要なのはもちろんですが、その中でもオーナー/オペレーターが特に注意を払うべき、極めて重要なアプリケーションが存在します:
プロセス計装/分析計装:システム設計は、プロジェクトの初期段階において大きな課題となることがあります。効率的かつ効果的な分析システムを構築するための製品、材料、設計を選定するのに必要な専門知識がすぐに得られるとは限りません。さらに、接続時や試運転時の取り付け作業が不適切だった場合、プロジェクトのリード・タイムが長引くばかりか、漏れや排出といった安全性の問題が発生するおそれがあります。流体システムのプロバイダーによる 現地コンサルティング を活用することによって、このような問題を解決できる可能性があります。
回転機:ポンプ、コンプレッサー、タービンなどの回転機は、オペレーション全般の信頼性にとって欠かせません。ダウンタイム(停止時間)が発生すると、生産停止や利益の損失につながりかねません。信頼性の高い メカニカル・シール・サポート・システム を使用すると、回転機ユニットを適切に稼働させることができます。メカニカル・シールの流体がクリーンでなかったり、パーティクルが含まれていたりすると、シールの寿命が短くなることがあります。同様に、不適切な圧力や温度で流体を供給した場合、早期または深刻なシールの不具合が生じるおそれもあります。
タレット・スイベル・システム:FPSOのタレット・スイベル・システムは、上甲板と海底システムを接続する重要なポイントです。スイベルの中には、長いホースを使用して接続しているものもありますが、ホースは 定期的な点検 が必要で、数年で交換が必要になる場合もあります。不具合が発生すれば、数百万ドル相当もの生産量が失われることにもなりかねません。チューブを恒久的に取り付け、柔軟性が必要な個所にのみ短いジャンパー・ホースを使用するなど、適切な設計に基づいた取り付けを行うと信頼性が向上し、メンテナンスも少なくて済むことがわかっています。
サンプリング・システム:サンプルの採取は、必ずしも直感的なプロセスではありません。システム設計には広範な技術知識が必要になるため、担当者が一貫してベスト・プラクティスに従うことは容易なことではありません。サンプリング・システム を適切に設計することで、プロセスの状態を正しく表すサンプルの採取、安全性、標準化を実現できるため、オペレーションの際に一連の管理、コンプライアンス、適切なプロセス・コントロールを維持することができます。
化学薬品注入(CI)ユニット:CIユニットは、生産井への化学物質の投与を高い精度で繰り返し行うことで、信頼性の高い生産を維持することが求められます。人や環境を保護するには漏れの無いパフォーマンスが不可欠であり、どのような形であれダウンタイム(停止時間)が生じると生産量の大幅な損失につながりかねません。一般的なCIシステムでは、数百カ所もの接続部が必要になることもあります。
このようなアプリケーションでは、すべてのチューブ、継手、バルブが同じように作られているわけではないことを念頭に置くことが重要です。単一のサプライヤーから漏れの無い流体システム部品を調達することで、長期にわたるパフォーマンスを実現することができます。場合によっては、FPSOが操業する過酷な海洋環境での耐食性を高めるべく、高い品質の合金の使用を検討することも大切です。適切な流体システム・サプライヤーの材料科学チームは、どの合金が船舶の操業条件に最も適しているのかを見極めることができます。
FPSO建造プロジェクトに際して適切なサプライヤーと提携する
FPSO船のオーナーは、適切な流体システム・ソリューション・プロバイダーと提携することで、必要な小口径チューブ・システム部品を単一の供給源から調達することができます。また、このようなプロバイダーは、どのような製品や材料組成であれば、漏れの無いオペレーションを長期にわたって実現することができるか、そして必要なときに入手できるかについてアドバイスすることができます。さらに、世界中のスタッフを動員し、国際的なFPSO船建造プロジェクトを包括的かつタイムリーにサポートすることも可能です。
適切なパートナーは、特定のアプリケーションやパッケージについて、仕様の検討、効率化の提案、コスト削減につながる構成案を支援することができます。また、プロジェクトが進むにつれ、協力的なサプライヤーであれば、スケジュールや複雑な物流管理をサポートし、プロジェクト全体を通じて現場の在庫や製品の供給を維持してスケジュールを調整し、期日通りの竣工への道を切り開くことができます。
FPSO船の小口径流体システムに関する計画に携わっている方は、新たなプロジェクトに着手する際に、こんな風に考えたことはありませんか?「効率的に作業を進めたり、システムの有効性を高めたりする方法はないだろうか?」ぜひ最寄りのスウェージロック指定販売会社にご相談ください。これまでとは異なるアプローチでより高い成果を目指す機会について協議できればと思います。
1「FPSOの市場規模、マーケット・シェア、市場拡大および業界分析」、 フォーチュン・ビジネス・インサイト
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